『塩一つまみ』

町が主催する「ビアガーデン」に行ったら、開始まで30分あるし、知った顔は無いしで、居心地が悪い。いったん外に出て……。どうしようかと考えあぐねた末、クマ出没のニュースが相次ぎこのところ散歩してなかったので、久しぶりに歩くことにした。
中学時代登下校時に立ち寄った神社に参拝していると、スマホが鳴った。同級生のCさんだ。
「どこさ、いる?」
「近くの神社。久しぶりに手を合わせているよ」と私。
「んだが。いいことしったな。みんな来てっから、来いよ」
というので、「神様、んでは、行くね!」と、ビール飲みたさに参拝を切り上げる。

ビアガーデン会場の長テーブルには、キュウリの一本漬けやゆでた枝豆、色よくついたナスの漬物などが並ぶ。
「私が漬けたんだ。取って、け!」(取って、食べろの意味)
にこにこ笑ってそう惜しげも無く振る舞うのは、Dさんだ。
遠慮無くいただくと、うまい! 採れ立てを漬けたのだろう。皮が柔らかいのに、ポリポリとした食感が堪らない。塩加減も抜群で、唸ってしまった。うーん……。このうまさは何だ?
どうやって漬けたのかと聞いてみると、Cさんは事もなげに言う。
「ただ、漬けたんだ」
「ただ漬けただけ? なんか、工夫してっべ? 洗うとこから教えてけろ」と私。絶対何かあるぞ!? 知りたがり屋の性分がむくむくと顔を出す。
「洗うとこから? めんどーだな」
「いいがら、頼む」
「普通だべず。洗って、へた落とすべ」
「うんうん」
「そしたら、塩一つまみ。キュウリにこすっべ。あとは市販の塩漬けの素さ、漬ける」
答えはそこにあった。「塩一つまみを手に取り、その手でキュウリをこする」のだ。
この一手間が漬物を美味しくするんだ! なるほど、それなら私にだって出来るもん!

はてさて出来たとお思いか?
結論から言うと出来ませんでした。毎日やってるのに、未だにあの美味しさが出ない。
塩一つまみだけではない、きっと他に何かがある。
それはもしかすると、Dさんのおもてなしの気持ちと愛の成せる技なのかもしれないな。
今度会ったら、聞いてみよう。
「はあ? おもてなしの気持ちと愛? ばかか、お前」
そんな風に笑い飛ばすだろうな、Dさんは。